仕事や家事への愚痴は、システム障害の報告ではありません。単なる「排熱処理」です。今回の記事ではエンジニアの視点で、解決策を提示してくれるパートナーとの「認識のズレ」をデバッグし、持続可能な関係の仕様書(README)を更新します。
心のCPUクーラーについて
前回、冷え性対策の記事で、「人体の熱を逃がす仕組み(排熱)」について論理的に解説しました。今回は、身体ではなく「心の排熱」について、少し個人的なエラーログを分析してみたいと思います。
私は家では、実によく文句を言います。仕事のこと、家事のこと、もう何もしたくない等。これらはシステム障害の報告ではありません。単なる私のデフォルトの仕様であり、定期的なログの出力です。
しかし、同居している彼女(オペレーター)は、これを致命的な障害だと誤検知してしまいます。「じゃあ、気分転換に散歩に行こう」「美味しいものを食べに行こう」
非常に建設的な「解決策」の提案です。それに対する私の返答はこうです。
「いや、面倒くさい」
……そして、さらに文句を言い続けます。これでは彼女が「あー、しんど」とこぼすのも無理はありません。
なぜ私は解決策を拒絶するのか
SEとしてこの現象をデバッグしてみると、二人の認識に致命的なズレがあることがわかります。
彼女の認識
彼は今、溺れている(故障している)。だから浮き輪(解決策)を投げて救助しなければならない。
私の認識
私は今、「排熱処理(サーマルスロットリング)」を起こしているだけだ。
サーマルスロットリングとは、CPUの温度が上がりすぎた際、強制的に性能を落として熱暴走を防ぐ機能のことです。私の文句やウジウジした態度は、溜まりきった熱を逃がすために全回転しているファンの音に過ぎません。
CPU使用率が100%で張り付いて熱暴走寸前のマシンに、「散歩」や「外食」という「新規タスク」を投入したらどうなるでしょうか。処理落ちするか、フリーズします。
だから私は「面倒くさい(これ以上タスクを積むな)」と拒絶してしまうのです。私は問題を解決したいのではありません。ただ、処理が終わって熱が下がるまで、唸りを上げていたいだけなのです。
かつての「共鳴」と今の「放置」
ふと、過去のことを思い出します。かつて私を愛し、そして突き放した人のことです。
その人は、私の排熱音(苦しみ)に深く共鳴しすぎる人でした。「私がなんとかしてあげなきゃ」と、システムごと抱え込もうとして、結果としてショートしてしまいました。それはある意味で美しく、しかし激しいバグでした。
対して、今のパートナーはどうか。私が提案を却下し、文句を垂れ流し続けると、彼女は「待って、しんどい」と言って距離を取ろうとします。見捨てはしませんが、助けもしません。
一見冷たいようですが、実はこれが最強の運用体制なのかもしれません。彼女は知っているのです。私が「放っておけば、そのうち勝手に再起動して戻ってくる」という仕様を。
自力で浮き上がる船と、港
今の関係を例えるなら、私はボロボロになって帰港した「船」で、彼女は「港」です。
船が「もうダメだ、沈む」と浸水しているとき、港は海に飛び込んで船を持ち上げたりはしません。そんなことをすれば、港まで破壊されて共倒れになります。
港の機能は、ただ「ドックを閉鎖せずに開けておくこと」です。「修理が終わったら声をかけてね」という顔をして、陸で自分の生活を続けている。
私が安心して「どうでもいい」「面倒くさい」と毒を吐けるのは、この港が「私がどんなに壊れていても、閉鎖されない」という絶対的な信頼(あるいは甘え)があるからです。
自力で沈み、海底で泥を吐き出し、自力で浮上する。それを手出しせずに黙って待たれることほど、救われることはありません。
取扱説明書(README)の更新
もし、パートナーの愚痴に疲れている人がいたら、あるいは私のように「解決策」を拒絶してパートナーを疲れさせている人がいたら、一つのREADME.txt(仕様書)を共有することをお勧めします。
【ステータス:排熱処理中】現在、CPU負荷増大につき排熱処理を実行中です。解決策(新規タスク)は不要です。ただの騒音だと思って、放置してください。プロセス完了後、自動的に通常モードに復帰します。
「しんどい」と言い合える関係は、実はとても堅牢なシステムです。ドラマチックな愛ではないかもしれませんが、この退屈で頑丈な港に錨を下ろして、私は今日も安心して文句を言うのです。



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